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2001年11月
11月の小江戸探検隊は、山崎美術館を探検します。
山崎美術館は、蔵造りの町並みの入口・仲町交差点にある
和菓子の老舗「亀屋」に併設され、
近代日本画の革新者・橋本雅邦(はしもとがほう)をはじめ、
日本画を中心に展示しています。
芸術の秋ならずとも、訪ねてみたい美術館です。


第16回
(財)山崎美術館

 山崎美術館は、和菓子の老舗「亀屋」を営む山崎家の絵画をはじめとする美術品を所蔵・公開しています。川越と深い関わりを持ち「近代日本画の父」と称される橋本雅邦の作品でよく知られている美術館です。今回、館長の山崎登貴子さんに橋本雅邦についての興味深いお話を伺うことができました。そちらのお話を交え、橋本雅邦の足跡を辿りながら、山崎美術館をご紹介したいと思います。

 橋本雅邦は、松平周防守(まつだいらすおうのかみ)の御用絵師、橋本晴園養邦(はしもとせいえんおさくに)の子として、江戸の木挽町(こびきちょう)狩野家邸内で生まれました。狩野晴川院養信(かのうせいせんいんおさのぶ)、勝川院雅信(しょうせんいんただのぶ)のもとで、狩野派絵師として腕を磨き、その腕前は同日入門した狩野芳崖(かのうほうがい)とともに、門下の二神足と讃えられました。

 幕末、松平周防守は川越藩へ国替えし、雅邦も川越藩士として明治維新を迎えています。

 「独立、結婚した雅邦は混乱する世情を受け、生活は困窮を極めますが、輸出用の扇子に絵を描いたり、三味線(しゃみせん)の駒を作る内職で生活を支えていました。この頃、一時川越に身を寄せています。その後、海軍兵学寮(のち海軍兵学校)の製図係の職を得、教官として生徒に図学を教えることもしました。この時期には油絵も描いています。」〈山崎館長〉

 明治15年、雅邦48歳の時、第1回内国絵画共進会で主席の銀印を受賞し、世に出るきっかけをつかみました。その後、日本美術の価値を見出しその復興を目指したフェノロサと岡倉天心との出会いが雅邦にとって大きな転汲ニなります。今までの日本画に、西洋の空間表現、光の効果、構図の要素を取り入れ、作画の「妙想」が重要視されるなど、その実践者として、雅邦と狩野芳崖が中心に立ちました。

 「明治22年に東京美術学校が開校し、日本画の主任教授となります。生徒の個性を尊重したとされ、横山大観(よこやまたいかん)、下村観山(しもむらかんざん)、菱田春草(ひしだしゅんそう)などが雅邦のもとから巣立っていきました。また、若かりし川合玉堂(かわいぎょくどう)は、明治28年、京都で開かれた第4回内国勧業博覧会で雅邦の絵を見て感激し、その後上京して雅邦の門下となり指導を受けています。雅邦が教育者として重要な役割を果たしたことも忘れることはできません。」〈山崎館長〉

 明治31年、美術学校騒動が起こると、岡倉天心とともに職を辞し、日本美術院の創立に参画、より自由で先進性に満ちた日本画の制作に取り組んでいきました。

 「雅邦が絵を描くにあたって最も大切にしたのは、絵画はものの形を写すものではなく、心や精神を表現するものであるということです。」〈山崎館長〉

 明治32年、川越の経済発展に尽力し、川越商業(商工)会議所初代会頭にも選ばれる山崎家の4代嘉七(のち豊)を含む有志が雅邦の功績を讃えて「川越画宝会」を発足させます。

 「料亭初音屋において雅邦を招いて宴が催され、その席で雅邦は筆を執って即興で絵を描いたという逸話が残っています。その後、会が東京にも知れ渡ると、東京の参加者が増え、川越の字を取って「画宝会」へと発展していきました。この頃の交流を通じて、雅邦の作品の多くが山崎家の所有となりました。私の祖父(6代嘉七・山崎美術館初代理事長)は、豊に連れられ東京の展覧会に行ったことをよく話していました。明治45年、豊は代々これらの絵画を家宝として子々孫々に伝えることを遺言とし、82年の生涯を閉じました。」〈山崎館長〉

 昭和57年、「亀屋」の敷地内に山崎美術館を設立する運びとなり、山崎家所有の雅邦の作品、その他菊池容斎(きくちようさい)、川合玉堂をはじめとする日本画などもあわせて公開するに至りました。また、空いた土蔵を利用し、昔使われた木型をはじめとする菓子作りの道具等を展示するなど、「創業200年余りの旧家に美術館が開館」と当時たいへん話題になったということです。

 現在、山崎美術館では、展示の中心が日本画ということで、時節に応じて作品を入れ替え、季節感を重視した展示が行われています。鑑賞後には、お茶とお菓子をいただくこともできます。蔵に囲まれてゆっくり鑑賞の余韻を楽しめ、川越を訪れる多くの方々が入館されています。皆さんも四季それぞれに山崎美術館を訪れてみてはいかがでしょうか。


館内。奥に橋本雅邦作「松に鶴と波の屏風」が見える

 


近代日本画の基礎を築いた橋本雅邦画伯

 


数々の作品を収集した4代山崎嘉七(のち豊)氏

 


昔使われた菓子作りの木型等を展示する元炭蔵


【入館案内】問い合わせ TEL049-224-7114
開館時間
休館日
入館料
 午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
 毎週木曜日(祝祭日の場合は開館) 毎月末2日間(土・日曜日は開館)
 一般500円(団体20人以上400円) 学生350円(団体20人以上250円)

次回12月で、小江戸探検隊は最終回となります。
総集編をお届けする予定です。

 

コンテンツ制作にあたり、いくつかの文献を参考にさせていただきました。
また、ご協力いただいたすべての方々に感謝いたします。

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